「遊びの流儀 -遊楽図の系譜ー」展

サントリー美術館で開催されている「遊びの流儀ー遊楽図の系譜」展に行ってきました。古い絵画や屏風などから、当時の「遊び」の様子を探ろうという展示会です。とても楽しみにしていました。

 

展示された資料は、多くが江戸時代のもの。

当時の人々の「遊ぶ」姿を描いたこのような絵画を「遊楽図」と呼ぶそうですが、そこには当時の人々の普段の様子そのままの、生き生きとした姿を見ることが出来ます。

屋外での水遊びや集団での踊り、屋内でのカルタや三味線・・・

その楽しそうな様子を見ていると、話し声や笑い声が聞こえてきそうです。

 

これらの絵画の中で多く描かれているのは、大勢で踊っている様子です。

本当に楽しそう。

現在でも若い方はよく踊って(?)いますから、人間の自然な行為なのかもしれませんね。

沖縄などでは、何かあると直ぐに誰かが三味線を取り出して、その演奏に合わせてみんなが踊りだす~

というのはよく見かける光景ですから。

 

展示会場では絵画の他にも、当時のカルタや貝合わせや香道具なども展示されてます。

江戸時代初期の、まだ輸入された頃のカルタは黄金色に輝いて本当に綺麗。

今我々が知るカルタと違って、ちょっとエキゾチックな雰囲気です。

 

「輪舞遊楽図屏風」の一部(図録より)
「輪舞遊楽図屏風」の一部(図録より)

私が見たかったのはもう一つ、当時の衣装。

一人一人が自由な髪形で今よりずっとラフに着物を着ている様子は、見ていて本当に楽しいです。

着物の柄も本当に様々。

じっくり見たかったので図録も買ってきました。

 

展示期間中は、フレンドリートークなどのイベントも開催されています。

こちらに参加すると、理解がより深まるかも知れません。

展示会は8月18日(日)まで。何回か展示替えがあります。

詳細はホームページをご覧くださいね。

 

 

着物を「仕立てる」ということ

少し前に袷の着物を洗濯に出しましたが、

一枚洗濯に出さなかった着物がありました。

数年着る間に表地と裏地のそぐいが合わなくなったので、一度着物をほどいて洗い張りをし、仕立て直しをお願いしようと思ったのです。

お願いするのは、その着物を仕立ててくださった和裁の先生。

私に和裁を教えてくれた先生で私のブログにも度々登場されますが、

お会いする度にためになるお話を々色々伺ってきます。

今回はその着物と一緒に、帯を一点持って行きました。

その帯はちりめんの染帯ですが、お太鼓柄。

柄が気に入ったので手に入れたのですが、仕立て上がりの帯でした。

帯の長さは十分にあるのですが、前柄を正面に出すとお太鼓柄までの長さが私には少し短くて、

結べないことはないのですが、あと少し長さが欲しい・・・、そんな帯で、その仕立て直しの相談をしたかったのです。

 

先生はまず最初にこの帯を見て、「生地が縮んでいるわね」とおっしゃいました。

なんかゴワゴワすると感じていたのは、表地の縮緬が縮んで、中の帯芯にシワが寄っていたからでした。

「仕立てる前にきちんと処理をすれば、こんなに縮まないのよ」と先生。

そうか、仕立てる前の作業が大事なのね。

帯の長さは十分にありお太鼓の折り返しの長さもあるので、そこから生地を取って長くしたいところにはいで・・・

と私は簡単に考えていましたが、先生が「この帯は簡単な仕立て方をしてあるから、ちゃんと作り直しましょう」とおっしゃって、私の全く考えていなかった方法で仕立て直しすることになりました。

 

普通「お仕立て」というのは反物を預けてあとはお任せですね。

先生が「こうして顔を合わせれば、こちらも色々判断したり提案したり出来るのよ」とおっしゃいました。

一口に「仕立て」と言っても通り一遍ではなく、

微妙な縫い加減など和裁士の様々な判断で仕上がっていきます。

和裁士さんは単なる「寸法通りに着物を縫う人」ではないんですよ。

 

 

きものを着る喜び、着せる喜び

きもの教室の初等科を卒業された方が、もっと着物のことを知りたいと中等科に進学されて、勉強を続けています。

中等科は「人に着せる」ための勉強をしますが、基本的に「自分で着物が着られること」が前提です。

自分で実際に着物を着てみないと、紐の締め具合とか裾さばきの感じとかはわかりませんものね。

 

人に着せる練習は練習用のボディに着せます。

自分で着る際によくわからなかった背中や脇が良く見えるので、

「あー、こういうことだったんですね」と、

自分の着付けを振り返りながら勉強を進めます。

この中等科の生徒さんにはお嬢さんがいらっしゃるので、将来的には自分で着て、お嬢さんにも着せて・・・ということが出来ますね。

先日こちらの教室の初等科(自分で着る)を卒業した方から、写真付きのお便りをいただきました。

一枚は姪御さんの結婚式に出席された際のお写真で、「自分で着ました!」という着物姿のご自身と

振袖を着たお嬢さんとのツーショット写真、

もう一枚は「成人式の前撮り写真です」という、

結婚式の着物とはまた違う着物を着たとってもステキなお嬢さんの振袖姿でした。

若い方の振袖姿というのは本当に綺麗ですね。

お嬢さんの美しい振袖姿に幸せを感じるお母様の心が伝わってきて、こちらもとても嬉しく思いました。

 

昨日は友人から着付けの依頼がありました。

お嬢さんがお琴の発表会に振袖を着るのでその着付けと、その日に

ご自身も着物を着たいので「二人分よろしくね」とのことでした。

喜んでお引き受けしました。

 

こちらのお嬢さんも来年の成人式の前撮りが秋頃にあるそうで、

その際に無料着付けとお食事会が付いているとのことで(今はそんなサービスもあるんですね!)、「今年はたくさん着物が着られそう」

と嬉しそうでした。

 

自分で着物を着られるのは楽しみでもあり嬉しいことですが、

お嬢さんやお友達と一緒に着物を着てお出かけできるのも、とても嬉しいことですね。

 

 

着物のお手入れ

既に着物は単衣になっていて、間もなく夏物/薄物になろうという季節です。

着なくなった袷の着物をお手入れに出さないといけませんが、衣替えをした直後は混んでいるような気がして、

ちょっと待っていました。

 

そんな着なくなった袷の着物を、先日ようやく丸洗いに持って行きました。

いつもお願いしているお店です。

初めて見るまだ若い女性の店員さんでした。

「○○店から異動になった△△です」とにこやかに挨拶をして下さったので、

その方が丸洗いをお願いする着物を一枚一枚チェックする間、つい話が弾みました。

 

「洗いに出された着物でこんなにきれいな物って見たことがありません!」と、その方が。

「衿も全然汚れていないですね。私なんか、洋服の時でも衿にファンデーション付いちゃうんです」。

自慢話みたいですが((#^^#))、丸洗いに出した着物に大きな汚れやシミの付いていないことを褒めていただきました。

 

着物の衿が汚れてしまう方は多いですね。

半分に折った衿に沿って、ファンデーションが付いて・・・

というのはよく見かけます。

原因は様々あると思いますが、衣文が抜けていないことが多いように思います。

長襦袢の衿からしっかり抜いて着ると、首回りも楽ですよ。

長襦袢も着物も背中心を意識して、左右対称に着ましょう。

 

右の写真は、別珍の余り裂で自分で作った着物のお手入れ用の小布団です。

私は外から帰って脱いだ着物は、この小布団で必ずホコリを払います。

特に裾回り。洋服でも、靴や靴下は一日で汚れますよね?

目に見えなくても、着物もホコリを被っています。毎回洗えない着物だからこそ、毎回のお手入れは欠かさずにやりたいですね。

この小布団の中に綿の余り布が入っていますが、ファスナーを付けたので、

中身を取り出して外側だけでも洗えます。

 

とにかく、着物は大切に大切に扱うことなんですね~。

 

 

衣替え

衣替えの季節です。

そうは言っても最近の温暖化で、とっくに夏服を着ていますね。

昨日も30度を超える夏日でした。

着物も時代に合わせて「気温に沿って切り替えを」と思いますが、

着物の世界はなかなかそう言い切れないところがあります。

 

時々開いてこのブログでも紹介する右の写真の「きもの歳時記」ですが、

「六月」の項にはやはり「衣替え」について書かれてあります。

時々着物を着ることはあっても「暑いから夏はちょっとね」とおっしゃる方もいると思いますが、実は夏の着物の生地には沢山の種類があって、選ぶ楽しみ・着る楽しみがあるんですよ。

 

この本には、かつての日本人が夏の始まる前のこの時期から夏にかけて、

繊細な感性を以ってそれらを着分けていたことが記されています。

それは生地の種類にとどまらず、季節の先取りによって選ばれる着物や帯の柄や

その取り合わせにまで及び、日本人に生まれた喜びと着物をまとう楽しみを教えてくれる内容です。

 

季節は6月1日に線で引いたように変わるわけではないので、その前後で選ぶ着物も行ったり来たりするのですが、

その中できっちり6月1日に変わるのが半衿。

それまでの塩瀬の半衿が、絽の夏物になります。

半衿から始まって、帯揚げも絽になり、帯もだんだん夏らしくなって行き・・・

7月からは、きっぱり夏!になります。

ですから、着物ではどんなに暑くても麻は夏のもの。

6月にはちょっと早い気がします。

 

阿波しじら
阿波しじら

同じ「六月」の項の中に、「阿波しじら」のことが書かれてあります。

阿波しじらは徳島県の織物で、木綿です。

ワッフル地なので肌につかず、サラッと着ることが出来るし、軽いです。

木綿なので自宅で洗えるので、汗をかく季節には嬉しいですね。

ワッフル地のため、自宅で洗ったあとのアイロンも要りませんよ。

汗をかくようになってきたこの季節・・・けれど着物を着てみたい!

そんな着物初心者さんに、オススメの着物かも知れません。

 

 

踊りの発表会

ずっとお世話になっている和裁の先生から、連休明けにお便りをおただいていました。

ずっと習っていた日本舞踊で名取になられて、「今度お披露目をするから来てね」という内容でした。

 

先生が日本舞踊を習っていらっしゃるとは知りませんでしたが、

今年習い始めて12年目とのこと、お喜びのご様子がお手紙から伺えました。

入っていた予定を変更して、昨日楽しみに会場に向かいました。

 

「紅梅流」という流派の発表会で、会場は松戸市民会館大ホール。

大きな会場でしたがお客様で一杯で、お着物の方も大勢いらっしゃいました。

 

先生は「名取披露目」の部で踊りを披露されました。

いつも拝見するお姿とはまた違って、一生懸命に舞われる姿に感動。

70歳を少し過ぎた位のお歳だったと思いましたので、それから逆算すると60歳くらいから始められたワケで、続けることの大切さを感じました。

 

中にはもっと高齢とお見受けする方もいらっしゃいましたが、ひとたび舞い始めると背筋がピシャッとして、とても美しく見えました。

 

踊りの合間には、彩生という会の太鼓の演奏や、地元出身の津軽三味線の演奏などもあり、最後まで楽しい時間を過ごしました。

ところで昨日は「着物はやっぱりいいなあ」と感じながら拝見していました。

舞台で着る着物と帯は、演目に合わせてそれぞれの演者が用意されたのだと思います。帯結びも様々でした。

踊りは仕草だけで気持ちを表現しますから、袖で顔を隠す、袖で涙をぬぐう、肩を落とす、上前をちょっと引く・・・

それだけで主人公の想いを表します。

着物には動きが無いようで、実はとても気持ちを表現するんですね。

 

流石にみなさん綺麗に着物を着ていらして、どんなに動いても裾が乱れてこないのは、何か着付けのポイントがあるのでしょうね。

今度先生にお会いした時に聞いてみたいと思います。

 


宮中祭祀

先日天皇陛下と皇后さまが「期日奉告の儀」という宮中祭祀に臨まれました。

お二人とも古式に則った衣装をお召しで、その美しい姿に目を奪われました。

 

朝日新聞5/9朝刊より
朝日新聞5/9朝刊より

天皇陛下は礼装の束帯(そくたい)姿。

笏(しゃく)を手に持って垂纓冠(すいえいのかんむり)を被っていらっしゃいました。

一番外側に身につけていらっしゃる御袍(ごほう)の色は黄櫨染(こうろぜん)と呼ばれる色で、天皇が儀式の際に使用すると決められた絶対禁色です。

ちなみに、ハゼノキとスオウで染めます。

生地の文様は、鳳凰・桐・竹・麒麟など王を象徴するモチーフとのこと。

 

皇后さまのお召しものは、五ッ衣(いつつぎぬ)の上に

緑色の小袿(こうちぎ)を重ねたもの。

亀甲の地紋に、鶴と松の丸紋がちりばめれれているそうです。

長崎盛輝/著「かさねの色目」青幻社
長崎盛輝/著「かさねの色目」青幻社

上の写真ではわかりずらいですが、緑色の小袿のすぐ下に五ッ衣の紫が重なっています。

これは「襲(かさね)の色目」でいう「松重(まつがさね)」で

おめでたい時に用いられる色目です。

皇后さまの衣装は10kgを超えるそうですよ。

 

頭につけていらっしゃるのは釵子(さいし)と呼ばれる髪飾り。

 

朝日新聞5/9朝刊より
朝日新聞5/9朝刊より

この後、皇居・宮殿では「勅使発遣の儀」が。

天皇陛下のこの時の衣装は、右の写真のような御引直衣(おひきのうし)と呼ばれるもの。こちらの裾を引く衣装も、鎌倉時代以降は天皇だけの装束となりました。

 

実は新天皇になられてから拝見するその御姿に、とても凛としたものを感じています。

今回の装束姿も、まるで毎日お召しになっていらっしゃるかのような堂々としたご様子でした。

 

皇后さまも、とても柔らかい表情をされていらっしゃいますね。

お体に気をつけながら、御公務を続けていただきたいです。

 

 

着物の勉強会

今月は、恵比寿本校での着物の勉強会に2回出席しました。

1回目は生徒さんと「きもの知識」の勉強会。

こちらはブログにも時々書いている生徒さんのための授業で、

実際に着物や帯の反物に触れて、

その手触りなどを知って貰うための授業です。

教科書で読んだ大島紬や結城紬などに実際に触れられる機会はあまりありませんから、貴重な授業で生徒さんにも好評です。

私は解説係ですが、行く度に用意されている反物は異なるので、私にとっても勉強になります。

今回も生徒さんが実際に大島紬と結城紬を手に取って

「へえ〜、こんなに違うんですね」。

その他の紬や小紋、夏の着物などもご覧になって、とても勉強になったようでした。


もう一つは「着こなし講座」。

こちらは初等科を卒業して自分で着物が着られるようになった方が、着物のコーディネイトなどを学べる講座です。

「一年を通して着物を着たい!」という方向けの講座なので、基本的に着物を着て受講します。

 

私は既に受講済みですが、こちらの教室でこの「着こなし講座」の授業を開きたいと思い、

”教える勉強”に通うことにしました。

つまりインターンですね。

これから一年、恵比寿校で実際の授業に参加しながら、開講に向けて勉強します。

今回の授業内容は「夏の着物」。

綿・麻などのカジュアルなものから、絽・紗・羅まで、

色々な反物を広げて勉強しました。

夏の着物には、ほんとうに沢山の種類があるんですよ。

勉強とはいえ、実際にたくさんの反物を手に取れるのは、

とても楽しいことですね。

 

一年を通して勉強しましたら、こちらの教室でも「着こなし講座」を

開講したいと思います。

                         興味のある方は、是非いらして下さいね。


4月は年度も改まり環境も変わったして、なかなか忙しい月ですね。

そんなこんなする内に、もうGWに突入です。私は今週末から実家に行く予定。

ですので、次回のブログは「令和」になってから・・・。

皆さまも、楽しいGWをお過ごしくださいね。

 

 

プロフェッショナルのきもの

先日NHKの「美の壺」で相撲の話をしていました。

その中から衣装に関係するお話をご紹介します。

 

まず、力士の締めている廻し。

稽古用は「稽古廻し」と言い、写真のようなもので、素材は綿。

これが十両以上になると、本場所では「締め込み」と呼ばれる絹の廻しを締めます。こちらは絹の繻子織。博多織もあるようですが、番組で紹介していたのは長浜市の手織りの機屋さん。通常の帯の4倍の密度で織るそうです。

 

もう一つは、行司の衣装。

幕下の取り組みの行司は木綿の衣装に裸足で土俵に上がりますが、

幕内の取り組みと仕切る「立行司(たてぎょうじ)」になると、衣装も豪華になって西陣織の錦地になります。

その仕立にも様々な工夫があって、手掛けるのは神官装束などを扱う専門家。

立行司の腰には短刀が差してあり、これは「差し違えたら腹を切る」という意味だそう。

(もちろん、今では本当に腹を切ることはありませんよ)


話は変わりますが、左は今読んでいる文庫です。

著作者の岩下尚史さんは、テレビでもちょくちょくお見かけします。

「ハコちゃん」の愛称で呼ばれていて、いつもお着物をお召しですね。

この本は、その岩下さんが昭和前期から新橋で活躍した芸者さん達にインタビューして、

当時の花柳界の様子をまとめたものです。

 

まだ途中までしか読んでいませんが、当時の花柳界では帯結び一つとっても、土地独自の特長があって、あれは新橋、あちらは赤坂・・・などすぐに見分けがついたそうです。

また着物の仕立ても、芸者さんは衣紋を大きく抜きますから、「玄人(くろうと)仕立て」と言って、一般の人とは異なる仕立て方をするのだとか。

着物のことも色々出て来て、面白く読んでいます。

 

今「着物を着る」というと、なんとなく教科書通りというか、みな同じように着ようとしてしまいがちですが、

本来は着物の着方にも個性があって良いハズですね。

まあ「自分らしく着る」ためには、何回も着てあれこれ悩んで・・・ということになりますが。

 

 

きものへの憧れ

先日美容院に行った際、雑誌「和楽」(小学館)が置いてあったのを手に取って読んでいたら、

「鬼怒鳴門亭日乗/文・鬼怒鳴門」というページがありました。

「鬼怒鳴門」というのは、ドナルド・キーン先生がご自分の名前を宛て字にしてお使いになったものですね。

 

キーン先生は日本が大好き、日本文化に造詣が深く、ご本もたくさん書いていらっしゃいます。

日本との関わりの最初は、若かりし頃に古本屋でたまたま手に取った「源氏物語」の翻訳本だったとのこと。

まだ戦争中のことで、読み始めてその美しさに救われたのだとか。

そこから先生と日本の絆は少しずつ深まって行き、東日本大震災の後に多くの外国人が帰国する中、

「私は日本人になる」と宣言されて、日本に帰化されました。

そんな先生も、今年の二月に96歳の天寿を全うされましたね。

 

さて、その手に取った和楽(2019年4月号)に掲載されていた先生の文章は、ずっとこの雑誌に連載されていたもののようですが、この号のタイトルが「着物」。先生がお書きになったものなので、興味深く読みました。

まず、先生が初めて「着物」を着たのが戦争中。着物といっても浴衣ですが、軍隊の仲間との集合写真に先生お一人が浴衣で写っています。先生が、日本との戦争中になぜ一人浴衣を着ていたかについては、先生ももうお忘れだとか・・・。

 

戦後に憧れの日本に留学することになったのですが、住んだのは京都。

そこで先生は狂言を習い始めます。そのお稽古をするために着物が必要で、着方や畳み方を覚えました。

当時の京都では今よりも着物を着て歩く方はずっと多かったそうで、

ある時、道で出くわした中年女性二人が通りの真ん中で立ち止まり、丁寧に羽織を脱いでお辞儀を交わしていた光景が忘れられないと書いていらっしゃいます。

 

先生はよく浴衣に下駄を履いて歩かれたそうで、

カランコロンという音が大好きだったとも。

下駄の音に心を奪われる様子は、

ラフカディオ・ハーンの文章にもありますね。

 

「着物を習う」というと「着付け」に気を取られてしまいがちですが着物に触れることは、日本人の心に触れることのように思います。

着物について学びながら、幾つかでもそんな日本の心に出会っていただけたら嬉しく思います。