飛騨古川に「三寺参り」という町内のお寺を詣でる行事があるそうです。
先日このことを伝える番組の中で、ここに住む19歳のお嬢さんがおばあさまに「着物で行きたい」と相談するシーンがありました。
おばあさまは箪笥の中からお孫さんに似合いそうな着物を何点か出してきて
「どれがいい?」と尋ねます。
その中からお孫さんが選んだのは辻が花調の青色の着物。
この着物、実はおばあさまがまだ若かった頃、満期になった郵便貯金で、娘(つまり、先のお嬢さんのお母さま)の成人式のために「清水の舞台から飛び降りる」気持ちで購入したものだとか。
その着物を孫にあたるお嬢さんがチョイスしたのでした。
三寺参りの当日、着付けをしてくれる呉服店に向かったおばあさまとお嬢さん。
大切に保管されてきた着物は、とても綺麗で、古い着物には見えません。
黒い帯に絞りの赤い帯揚げ、朱色の帯締めを締めて、若々しい着物姿に仕上がりました。
孫にもこの着物を着て欲しいと心の中で思い続けてきたおばあさまは、
お孫さんのきれいな着物姿に涙目に。映像を見ていた私ももらい泣き。
着物を着せてもらったお孫さんは
「着物だけで見ていた時よりもずっときれい。お母さんも着た着物を自分も着れて嬉しい」と。
おばあさまは「着てくれてありがとうね」。
ここからまた別のお話になりますが、少し前の新聞の読者欄に、
「20歳の着物 今わかる母の思い」という記事がありました。
記事によると、その方が40年以上前に成人式を迎える頃、お父様がリストラの憂き目にあいました。
ご本人は当時通っていた大学の中退を考えたそうですが、奨学金で何とか卒業されたそうです。
そんな中、お母さまが成人式のために着物一式を購入するからと
その方を呉服店に連れて行きました。
家庭がたいへんな頃だったので、店内で「リクルートスーツでいい」と言い張り
お母さまと口論に。
そんなお二人の様子を見た年配の店員さんが、「お母さまは成人式のお着物を楽しみに貯金されていたんですよ。親孝行だと思ってお着物を着てあげて下さい。成人式にしか着られない柄ではなくて、長く着られるものにしましょうね」。
この時に誂えた着物は、その後幾度も袖を通すことになりました。
当時理解できなかったお母さまの気持ちが、後になってありがたく思われるようになったそうです。
着物というのはただの衣装にとどまらない、気持ちのこもる特別なものですね。
母から娘へ・・・その愛情と共に伝えられていく、大切にしたい日本の文化だと思います。